薄れていく。
家から夫の匂いが薄れていく。
いや、もうほとんど無くなってしまっているかもしれない。
あの日から時々、あなたの布団で眠ります。
毎日使うとあなたの匂いがなくなってしまうから。
無くなったら困るから少しづつ少しづつ・・・と思っていたのに、夕べあなたの布団を敷いたら匂いはすっかり無くなっていて、布の匂いしかしませんでした。
それが布の匂いなのか、あなたの匂いなのか今の私にはわからなくなってしまいました。
いつ帰ってきてもいいように、気持ちいい布団であなたが休めるように天日で干そうと何度も思いました。
でもあなたの匂いがお日様にかき消されてしまうのが怖くて干せなかったのに。
あなたが日替わりで着ていたスーツたち。
顔を埋めてみたら、あなたの匂いは無くなっていました。
あの日着ていたスーツは処置のため切り裂かれ血もついていて、手元に置いておくのはつらくて勢いで処分してしまいました。
あなたの匂いが消されてしまうのが怖くてクリーニングに出せなかったのに。
そこにあなたの匂いはありませんでした。
私は生きていくための作業を始めました。